校正者が語る、英文校正のツボ 英文校正


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校正者が語る、英文校正のツボ

翻訳とは


翻訳者の中には翻訳という作業について様々な観点が存在します。
文学作品を翻訳する者は読者に作品の本質を伝えるよう努力しますが、良い訳に原文への忠実性が必ずあるというわけではなく、原著者の意と異なることがあります。

これはイタリア語の諺で“Traduttore, traditore”「翻訳者は裏切り者」という風に表現されています。私が携わっている技術翻訳では前述した概念とは異なり、正確に意味を伝えることが一番大切です。研究や調査論文等の第一目的は著者の心を伝えることではなく、単に事実やそれに基づく所見を正確に伝えることにあります。
技術翻訳にも幾つかの技法がありますので、ここでは私自身の経験や苦労から得た技とコツをお伝えしたいと思います。私の専門分野は主に医学・化学・生物学なため、ここではそれらを中心にお話します。

分野の知識


技術翻訳、特に医学翻訳の場合、専門知識がまず第一に重要です。
医学関連の翻訳をするためには、化学や生物学は勿論のこと、ある程度物理学の知識も必要です。

かつて医師を志していた私は米国の大学で医学を専攻していましたが、途中で専攻を変え、医師にはなりませんでした。その後、大学で学んだことと日本語学校で習得した知識を活かし、医学翻訳の道に入りました。

まずはアルバイトとして微生物研究所に勤めながら、医学部で解剖学や生理学の授業を受け、人間の解剖も見学しました。私は医師ではなく、実際に手術した経験もありませんので、医学翻訳者のプロになるためにはかなりの勉強が必要でした。
ここで、医学翻訳者を目指すあなたに私のお勧め方法をご紹介しましょう。

初心者なら、英国Channel 4の「Anatomy for Beginners」と「Autopsy: Life and Death」の2シリーズがお勧めです。これらは医師が説明をしながら、解剖学者が実際より短めの人体解剖を行います。また、英国BBCの「Human Body」シリーズでは医師が受胎から死に至るまでの人間の生命について説明します。
中級者なら、実際の手術や解剖のビデオを入手するのもよいでしょう。

専門用語や表現の理解


基本知識を習得した後は、各分野の専門用語や表現を理解することが上達の鍵です。日本人なら、『南山堂医学大辞典プロメディカ』や医学会誌等が大変役立つと思います。

また、よくクリニックや病院のホームページ上で、医師が患者やその家族に向けて、病気や手術について分かりやすく説明していることもありますので、そこから医療関係の情報を得ることが出来ます。

翻訳作業の際にも、翻訳者は専門用語や表現を正しく認識し理解しなければなりません。例えば、anesthesiaとanestheticは同義語ではなく、前者は麻酔という過程を意味し、後者は麻酔剤や麻酔薬を意味します。当たり前のようですが、英語も日本語と同じように言葉はひとつひとつ区別されています。

そこで、用語集や対訳集等も大変役立ちますが、同時に注意も必要です。例えば、ある画像診断会ではゾンデをそのまま「sonde」と記載していました。しかし英訳の際にはフランス語のままではなくprobeと訳さなければなりません。残念ながら、時に“専門家”の訳も誤っていることもあります。

翻訳者の仕事は翻訳物自体の質を左右する大切な作業です。私の場合、できる限り一人の著者が出した用語集や対訳集を使用するのを避けて、様々な専門家が編集したものを使用します。

例えば、初心者向けなら、caseとpatientの違い等を説明しているホームページ「A Guide to Medical Writing オンラインで学ぶ医学英語の書き方」がお勧めです。中級者向けなら、『Merck Manual』の「医師向け」と「家庭版」や『ステッドマン医学大辞典』、『PDQ』等がお勧めです。

分野や研究内容に精通する


専門知識を習得するためには、各分野の文献を読むとよいでしょう。これは決して簡単なことではありませんが、同じ分野で既に日本語に訳されたもの、或いは原語のものや外国で発表されたものは翻訳作業をする上での手掛かりを得られるでしょう。『Trends in Glycoscience』や『Glycoforum』のような日英版の学会誌は少ないですが、日英版要約を公開する学会は実際に存在しますのでご参考までに下記一覧表にてご紹介します。

臨牀透析
『The Japanese Journal of Clinical Dialysis』

季刊 腎と骨代謝
『Kidney and Metabolic Bone Diseases』

肺癌
『Japanese Journal of Lung Cancer』

日本消化器外科学会雑誌
『Japanese Journal of Gastroenterological Surgery』

早期大腸癌
『Early Colorectal Cancer』

日本感染症学雑誌
『Japanese Association for Infectious Disease』

臨牀消化器内科
『Clinical Gastroenterology』

外国語の文献に挑戦するのでしたら、専門家が利用する医薬学の検索エンジン「Pub Med」が不可欠であり、日本語でも「PubMedの使い方」や検索ガイドは幾つかあります。

分野外でも参考がある


医学翻訳では他分野の参考文献も使用します。法律分野でいえば、対訳版の日本の薬事行政があり、政府が公開した法令翻訳データが役立ちます。数学や統計分野では、日米EU医薬品規制調和国際会議(ICH)が様々なガイドラインを公開しており、対訳版もWebから入手できますし、統計処理でよく使用されているSPSS統計ソフトも日本語版と英語版があります。また、PC関連ならMicrosoftやAppleがあり、様々なLinuxの文字列の対訳集もダウンロード可能です。

電子化へ


紙媒体の参考文献も役立ちますが、検索作業に必要以上に時間がかかるため、私は電子版の文献をよく使用します。電子化の利点はそれだけではなくPCひとつで作業が出来るため、本棚のスペースも節約できます。EPWING形式の電子版辞書が一般的で、私も多くの翻訳者が愛用している検索ツール「DDWin」や「Jamming」を使っています。

参考用データベースを作る


前述と併せて、私自身でも独自の参考用のデータベースを作成しています。ACNのコーディネーターやクライアントからのフィードバック・修正があった際には、原文と訳文をテキスト(txt)ファイルとし特定の場所に保存しています。その後、txtやエクセル形式のcsvファイル等を検索できるGrepツールを使い、迅速に過去の翻訳等を参照できるようにしています。

私は、現在ソフト開発部の学生でもあるため、独自開発のツールを使っていますが、市販の「PowerGrep」という安価なGrepツールもお勧めです。

誤りは学ぶ機会


最後に、私は、信頼性がある参考物や参考用データベースが備えて、完璧な翻訳作業を目指しておりますが、時には誤りをしてしまうこともあります。しかし、誤ちをただ失敗として考えるだけではなく学ぶ機会であるとも考えます。二度と同じ過ちを繰り返すことのないよう真摯に受け止め、そこからさらに学ぶよう努力しています。

私は翻訳のプロとして自分の仕事にプライドを持ち、「If a job is worth doing, it’s worth doing right.」(やる価値のある仕事は立派にやり遂げる価値もある)と信じています。

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翻訳者:Curtis Bentley カーチス ベントリー

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